ナンピン・マーチンの検証で、勝率98%を超える設定が見つかりました。
対象はゴールド(XAUUSD)。上昇基調の押し目を買い、逆行したら買い増して、複数のポジションをまとめて決済する方法です。
最初の注文を含めて最大3段に分けて保有する設定では、2022年以降の勝率が98.09%。最大5段の設定では、98.80%でした。
ただ、それだけでは採用できませんでした。
初期資金10万円で、開始時期を変えながら90日間の運用を試算すると、3段の設定で30万円に届いたのは114期間中2件。一方、資金が5万円以下になって止まったのは12件でした。
5段に増やしても、30万円に届いたのは同じ2件。それに対して、5万円以下で止まった期間は42件まで増えました。
勝つ回数が多いことと、限られた資金で運用できることは、別々に確かめる必要があります。
今回は、2026年10月15日に行ったナンピン・マーチン研究の記録をもとに、条件と結果、採用を見送った理由を整理します。
前回の「EAは何をもって『勝てる』と判断するのか?」で整理した評価基準を、具体的な検証結果に当てはめる回です。
なお、この記事の成績は1分足データを使った独自シミュレーションです。MT4・MT5の実ティックによるテストや、実口座で得た利益の報告ではありません。
今回確かめたかったこと
今回の研究で確認したのは、ナンピンとロットの増加を組み合わせることで、次の目標を両立できるか、ということです。
- 初期資金10万円を、90日以内に30万円以上へ増やす。
- 大きく資金を失うケースを抑える。
「利益が出る期間があった」だけでは、後半の条件を満たしたことにはなりません。
また、この試算は90日間での評価です。30日間での成績として読むことはできません。
ナンピンは、保有中のポジションが逆行したときに追加注文を入れる方法です。買いであれば、最初より安い価格で買い増すことで、保有全体の平均購入価格が下がります。
今回のマーチン型は、追加するたびに注文量を増やします。たとえば2倍なら、最初を1として「1→2→4」です。
ここでは、損切り後の次の取引で注文量を倍にする方式は検証していません。ひとまとまりの取引の中で、追加注文を増やす方式です。
400条件から、買いの候補を比較した
元データは、2004年6月11日から2026年9月24日までのXAUUSDの1分足、約705万本です。売買の探索は2006年から行っています。
最初から一つの設定だけを試したわけではありません。
レンジ帯への回帰、当日平均価格からの乖離、RSIを使った押し目、ブレイク失敗という4種類の入口について、買い・売り、追加と決済の設定、コストの仮定を組み合わせ、計400条件を調べました。
2006〜2016年と2017〜2021年で、取引件数と損益の基準を順に確認し、その後に2022年以降の結果を見ています。ただし、この価格データは別の研究にも使っているため、最後の期間を「完全に初めて見る相場での検証」とは呼びません。
この記事で比較するのは、その中のRSIを使った押し目買いです。
入口は、確定した15分足で次の二つを満たしたとき。
- RSIの期間2が、5以下。
- 終値が、EMA200(200期間の指数平滑移動平均)より上。
条件を満たしたら、次の1分足の始値で買います。
追加を含めた一組のポジションだけを保有し、数量で重みづけした平均購入価格から0.5ATR上がったところで全決済。共通の損切りも置き、保有は最長24時間です。
ATRは値動きの大きさを表す指標で、ここでは直前96本の15分足から計算し、保有中は固定しています。
「3段」「5段」は、最初の注文を含む
この記事の段数には、最初の注文も含みます。3段なら追加は最大2回、5段なら最大4回です。
主な比較条件は次のとおりです。追加位置と損切り位置は、最初の買い価格から何ATR下かを示しています。
| 設定 | 各段の注文量の比率 | 追加位置 | 損切り位置 |
|---|---|---|---|
| 追加なし | 1 | なし | 2ATR下 |
| 3段・等ロット | 1/1/1 | 1.5・3.75ATR下 | 8.25ATR下 |
| 3段・1.5倍 | 1/1.5/2.25 | 1.5・3.75ATR下 | 8.25ATR下 |
| 3段・2倍 | 1/2/4 | 1.5・3.75ATR下 | 8.25ATR下 |
| 5段・2倍 | 1/2/4/8/16 | 1.5・3・4.5・6ATR下 | 9ATR下 |
追加なしと追加ありでは、損切り幅も違います。したがって、この比較を「ナンピンだけを加えた効果」と解釈することはできません。追加、損切り、決済を含む設定全体の比較です。
勝率98%は、何を数えた数字なのか
まず、2022年から2026年9月24日までの結果です。コストは売買の価格差0.02ドルを仮定しています。
| 設定 | 勝率 | 決済した組数 | PF_R |
|---|---|---|---|
| 追加なし | 82.13% | 1,500 | 1.171 |
| 3段・等ロット | 96.69% | 1,388 | 1.410 |
| 3段・1.5倍 | 97.65% | 1,406 | 1.632 |
| 3段・2倍 | 98.09% | 1,413 | 1.750 |
| 5段・2倍 | 98.80% | 1,421 | 2.013 |
ここで数えているのは、注文一つひとつの勝敗ではありません。
最初の買いと、その後の追加注文をまとめて決済し、合計損益がプラスなら1勝。この一組を「バスケット」と呼びます。
途中で含み損を抱えたり、追加したりしていても、最後に全体がプラスになれば勝ちです。勝率98%は、含み損がほとんどなかったという意味ではありません。
また、表のPF_Rにも注意が必要です。
通常のPFは利益合計を損失合計の絶対値で割ります。ここでは、各バスケットの損益を、そのバスケットで全段を保有して損切りした場合の予定損失で割り、リスクに対する損益「R」に直してから集計しています。
そのため、PF_Rが1.750でも、固定ロットでの円利益が円損失の1.750倍になったと読むことはできません。
実際に10万円で始めたらどうなるかは、別の資金試算で確かめます。
10万円で始めると、結果の見え方が変わった
資金試算では、2017年1月から2026年6月まで、毎月初めを開始日として114期間を調べました。毎回、10万円からのスタートです。
目標に届くか、含み損益を含む資金が5万円以下になった時点で終了。どちらにも達しなければ90日で終了します。
下の表は、次の条件でそろえた比較です。
- 目標資金:30万円。
- 最初の注文:毎回0.02ロット。
- 1ロット:100オンス。最小注文・刻み:0.01ロット。
- ドル円:150円固定。レバレッジ:2,000倍。
- コスト:価格差0.02ドル固定。追加注文時には必要証拠金も判定。
これらは試算上の仮定であり、利用口座の実際の取引条件を示すものではありません。また、1.5倍の注文量は0.01ロット単位で切り捨てるため、前の表の理想的な比率とは一致しない場合があります。
| 設定 | 30万円到達 | 5万円以下で停止 | 終了資金の中央値 |
|---|---|---|---|
| 追加なし | 0/114 | 0/114 | 102,200円 |
| 3段・等ロット | 0/114 | 8/114 | 102,325円 |
| 3段・1.5倍 | 1/114 | 6/114 | 109,292円 |
| 3段・2倍 | 2/114 | 12/114 | 113,424円 |
| 5段・2倍 | 2/114 | 42/114 | 88,077円 |
※中央値は、目標到達や5万円以下で途中終了したケースも含みます。全ケースを90日間持ち続けた結果ではありません。
勝率の表では一番高かった5段・2倍が、資金の表では終了資金の中央値で10万円を下回りました。
3段・2倍と比べても、30万円への到達件数は増えていません。それに対して、5万円以下になった件数は12件から42件に増えています。
初回0.02ロットなら、3段・2倍を全部保有したときの合計は0.14ロット。5段・2倍なら0.62ロットになります。
平均購入価格は下がっても、その先でさらに下落したときに影響を受ける注文量は大きくなる。この設定差を、10万円の資金試算では無視できませんでした。
ただし、勝率の表は2022年以降、資金試算の表は2017年以降の開始日を含みます。同じ期間・同じ集計方法の数字を直接並べたものではありません。
114期間は、114回の独立した実験ではない
毎月始めて90日間を見るため、隣り合う開始日の試算には、同じ相場が含まれます。
3段・2倍で30万円に届いた2件も、開始日は2025年12月と2026年1月で、期間が重なっていました。
したがって、2/114をそのまま将来の成功確率とすることはできません。12/114や42/114も同様です。
また、5万円以下での停止は、資金がゼロになったことや、業者の強制ロスカットと同じ意味ではありません。今回の検証で定めた停止条件です。
この条件を置いても、価格が飛んだ場合に必ず5万円で損失が止まるわけではありません。
注文量を抑えれば、目標も達成できるのか
3段・2倍で、最初の注文を0.02ロットから0.01ロットに下げた試算もあります。
30万円到達は0/114。5万円以下での停止は5/114。終了資金の中央値は106,933円でした。
損失側の件数は減りましたが、目標到達もなくなりました。
さらに、全段を保有して損切りした場合の予定損失を、口座残高の15%以内に収める方式も試しています。
同じ3段・2倍では、30万円到達も5万円以下での停止も0件。終了資金の中央値は104,415円でした。
ただし、この方式では、計算した注文量が最小の0.01ロット未満なら注文しません。そのため、114期間中14期間は取引そのものがありませんでした。
損失の少なさを評価するときは、どれだけ売買できていたかも確認する必要があります。
なお、最初を0.02ロットにした3段・2倍でも、目標を60万円、100万円に変えた90日試算の到達件数は、どちらも0/114でした。
コストを変えると、過去の成績も崩れる
ここまでの主要な表は、価格差0.02ドルという固定コストの仮定です。この値を、実際の口座で常に使えるスプレッドと判断したわけではありません。
価格差を0.20ドルに広げた場合のPF_Rも調べています。
| 設定・コスト仮定 | 2006〜2016年 | 2017〜2021年 | 2022年〜最終日 |
|---|---|---|---|
| 3段・2倍/0.02ドル | 1.627 | 1.343 | 1.750 |
| 3段・2倍/0.20ドル | 1.149 | 1.005 | 1.409 |
| 5段・2倍/0.02ドル | 1.419 | 1.267 | 2.013 |
| 5段・2倍/0.20ドル | 0.946 | 0.971 | 1.633 |
5段・2倍は、最近の期間ではPF_Rが1を上回る一方、古い二つの期間では1を下回りました。
3段・2倍も、2017〜2021年では1.005まで下がります。
最近の勝率やPF_Rだけで判断すると、こうした条件への弱さを見落とします。今回の結果は、コストの仮定とセットで読む必要があります。
今回の検証で、まだ分からないこと
今回使ったのは1分足の始値・高値・安値・終値です。1分間の中で価格がどの順番に動いたかまでは分かりません。
そのため、追加は1分につき最大1回、追加した足では利確しない、同じ足で損切りと利確の両方に届く場合は損切りを先にする、といった処理を決めています。
条件は固定していますが、実際の約定をそのまま再現したものではありません。
スワップ、別途手数料、変動スプレッド、滑り、実際の口座通貨換算、時間による証拠金条件の変化、業者ごとの強制決済ルールも再現していません。
したがって、この結果だけで実運用でも同じ勝率や資金推移になるとは言えません。今回確認できたのは、記録にある条件を置いた独自モデルでの成績です。
採用を見送ったのは、勝率以外の条件を満たせなかったから
今回の範囲では、「10万円を90日以内に30万円以上へ増やすこと」と「大きな資金損失を抑えること」を両立できた候補は見つかりませんでした。
3段までの1.5倍・2倍の設定は、研究を続ける候補には残っています。すべてのナンピン・マーチンに可能性がないと証明したわけではありません。
一方で、勝率が98%を超えたという理由だけで、今回の目標に使う運用方法として採用することもできませんでした。
勝率を見る。
負けたときの大きさを見る。
資金と注文量を決めて、開始時期を変えた結果を見る。
さらに、コストを変えても結果が残るかを見る。
前回整理した評価基準が必要なのは、こうして同じ設定でも見る数字によって印象が変わるからです。
僕のEA研究では、良い数字が見つかったところで終わらず、その数字がどんな条件で成り立っているのかまで記録していきます。
